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サクブンチョウ

生活と音楽と物語と

最果タヒの「夜空はいつでも最高密度の青色だ」は我々の希望である

詩は逃避でなく希望である

 

詩は逃避ではなく希望である。

私たちが最も手軽に、どんな場所でも、どんな時でも言葉を使って作ることができる希望、それが詩なのだ。

 

インターネットの普及によって、ポエジーが散乱している。自己の不甲斐なさ、不確実さ、それに伴う不安、広がっていく格差、不透明な情報、見えない現実、去っていく大切な人、区別される人の生死、数えればキリがない、わんこ蕎麦みたいに不幸が降ってくるこの時代に、不幸を受け止めたりその傷の痛みを止めるための脱法ドラッグ、すなわちポエジー。ポエジーはじわじわと人を殺す。

しかし、ポエジーはポエムのようなものであってポエムではない。詩は、この苦しい世界でその先の新しい世界を示す。

 

不甲斐なくて遣る瀬無い夜に、一編の詩を朗読することで、明日に立ち向かえる気がする。街頭のスピーカーから歌われる詩で、すくむ一歩を踏み出すことができる。ふとしたタイミングで、詩は突然顔を出す。背後からそっと、我々に力を与えてくれるのだ。

ポエムはじわじわと人を生かす。

 

お願いだから、僕がみえているだけのそれだけの瞳になってくれないか。だれかの暇つぶしのために、愛のために喧嘩のために、僕は生きているわけじゃない。退屈を知らない人に、生きる意味って、あるの。ネオンと呼び込み、雑踏と罵声。ひとごみは、ぼくは、お前を孤独にするために流れていくわけじゃない。

 

ー「新宿東口」(夜空はいつでも最高密度の青色だ、より一部抜粋) 

 

詩は流体だと思う。気体ほど不確かではなく、個体ほど断定的ではない。その世界を映像として体現していたのが、映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』である。

 

映画ではなく、詩の映像化


『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』

 

監督は『舟を編む』の石井裕也。主演は池松壮亮石橋静河。盤石のキャスティングだと思われるが、観るまでは一抹の不安があった。詩を元に映画を作った時に、果たしてそれは観るに耐えるものとなるのだろうか、と。ポエジーになってしまうのではないか、と。

 

結論はタイトル通り、ポエムであった。すごい。

基本的に各役の台詞は少ない。映像と音楽と、それから小道具で演出している。それから台詞の半分は最果タヒの詩の一節の引用である。それから、詩を映像化しているところもあった。例えば、首都高の詩。

 

きみがどこかにいる、心臓をならしている、それだけで、みんな、元気そうだと安心をする。お元気ですか、生きていますか。

ー「彫刻刀の詩」

 

 

きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さない間、きみはきっと世界を嫌いでいい。そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない。

ー「青色の詩」

 

 

余分な言葉がないからこそ、劇中の言葉が脳内に響く。時には不協和音のように、一方ではパイプオルガンのように。

 

この映画は、水面のカットから始まる。詩が流体であることのメタファーなのではないか、と私は思っている。詩の世界が始まったことを示している。

 

それから物語は始まる。詳述は避けるが(なぜなら、スクリーンで見て欲しいから。こんなに良いのにすっからかんだった!)登場人物の誰もが、社会の間で、不安に不甲斐なく、それでも懸命に生きている。気をぬくとぬるま湯で溺れてしまう、月収30万の生活はそこにはない。地震に怯え、明日に怯え、社会に怯えている、そこには私やあなたもいるはずだ。

 

でも、そんな彼らの中で、希望となるのは「詩」であった。言葉によって(あるいは風景によって)希望を手にするのだ。

それから、恋と愛。

 

恋と愛なんてものは、我々が我々自身を嫌いでいる間は存在しないのだ。でも、この映画では終に存在する。自分自身を愛することができるようになったのだ。朝日と共に、希望を咲かせている。

 

見終わった後、明日が少し楽しみになったし、ちょっといいことが起こる予感がした。日常に生息するいやな予感は、すっかり影を潜めている。

 

石井裕也はこの作品によって、私たちに希望を伝えたかったのだろう。だから、最果タヒを選んだし、詩をモチーフにしたのだろう。

 

そこでようやくエンディングがThe MirrazのNew Worldであったことにも合点がついた。4年前の曲をなんで今更、と思ったし、The Mirrazとこの作品がマッチしているようには予告の時点で思わなかったのだ。うどんとそばみたいな、近いけど遠い。

 


The Mirraz - 「NEW WORLD」歌詞PV

 

でも、これはうどんととり天だったわけだ。

未来を作るために生きてるんだ、って。そうだよ、その通りだ。

 

今ある答えなんてもういらないんだよ

それはもう終わった問題なんだよ

こんな時代なんだ 好きにやろう

 

好きにやるという口実のもと、明日も仕事なのにこんな時間まで(AM 3時)文章を書いてしまった。新しい時代へ追いついていこう。

 

1300円で買える希望。 サウジアラビアとロサンゼルスの違いはなんだろう。

夜空はいつでも最高密度の青色だ

夜空はいつでも最高密度の青色だ